こころの栄養(連載コラム)

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第二回

もう引きずらない! イヤな感情すっきり術 西多昌規

西多昌規(にしだ まさき)
1970年、石川県生まれ。精神科医・医学博士。スタンフォード大学医学部睡眠・生体リズム研究所客員講師。豊富な臨床経験だけでなく、精神科産業医として、企業のメンタルヘルスの問題にも取り組んできた。『「引きずらない」人の習慣――怒り、悲しみ、不安のワナにハマらない』(PHP研究所)など、著書多数。

「上司に怒られたよ、自分のミスで」

「こんなに頑張っているのに、誰も認めてくれない」

このように、ネガティブなことばかり考えてしまい、「自分はやっぱりダメなんだ」と思い込んでしまう人は少なくありません。

しかし、悲観的になる必要はありません。人間は、ネガティブな感情を引きずるように作られています。なぜならば、こういった感情は生き残るために必要不可欠だからです。

人間の脳には、動物的な本能を司(つかさど)る大脳辺縁系という部分があります。シマウマが天敵のライオンに近づかないのは、理屈をつけてあれこれ考えているからではなく、動物的本能によるものです。人間にも動物的本能はちゃんと残っており、恐怖など不愉快でネガティブな感情は、脳に記憶されやすくなっているのです。

しかし人間と動物との違いは、ネガティブな感情にもいろいろと種類があること。さらに言えば、このネガティブな感情の処理の仕方で、その人の人生が大きく変わってくることではないでしょうか。怒りや悲しみをグズグズと引きずる人もいれば、あまり引きずらず、立ち直りの上手な人もいます。

いくら人間がネガティブな感情を引きずりやすいとはいえ、超ポジティブになるのは欲張りとしても、できれば立ち直り上手になりたいもの。そのためには、感情を操るちょっとしたコツがあります。ここでは6種類のネガティブな感情を取り上げ、それぞれが持つ意味と対処法を見ていきましょう。

「不安」が教えてくれること

人は不安を感じると、その危険を回避しようとするか、克服しようとします。回避しようとする場合は、まさに動物的本能が働いていると言えるでしょう。逆に乗り越えようとするときには、苦しい経験でしょうが、そこから貴重なものを作り出す可能性があります。不安は、向上のエネルギーにもなりうるのです。

不安とは、「なんだかわからないが、不安でモヤモヤしている」と感じるように、自分を脅かすようなものについての漠然とした予感です。人間はひとりで手持ちぶさたになると、あれこれ気になってしまい、ネガティブな気持ちにどんどん陥っていくものです。

不安が続いてしまうときには、手足を動かす簡単な作業を始めてみることです。部屋の掃除やオフィス、台所の整頓などは、もっとも手のつけやすい単純作業です。掃除や整頓のあとには、達成感を得られるおまけもあります。なにもせず悶々(もんもん)としているのが、いちばんよくありません。

  • ポイント
  • ◆不安は自分を高めるエネルギーにもなる。
  • ◆つらくなったら、体を動かして発散!

「怒り」が教えてくれること

怒りには、相手に自分の気持ちをわかってほしいという思いが潜んでいます。怒りの矛先が自分であったとしても、自分のつらい状態を誰かにわかってほしい気持ちはあるでしょう。そう考えると、怒ることは他人に甘えているということも意味しています。怒りは、自分の「器量の大小」を、教えてくれていると言っていいでしょう。

自分の思うようにならない不満の表れがイライラや怒りですが、ともすれば「自分は怒っていない」などと、無意識に否定しがちなもの。まずは、「自分は怒っているんだ」と自分の言葉で確認をして、怒りと一歩距離をとってみることからスタートです。

次に、自分を相手の立場に置き換えてみて、相手が怒るのももっともな理由を探していけば、怒りも少しは鎮まるでしょう。スポーツの「気合い」ではないですが、「(怒りも)はい、ここまで!」などと、自分に声をかける、手や頬を軽く叩(たた)くなど、怒りを断ち切る自分なりの動作や儀式を作るのもおすすめです。

  • ポイント
  • ◆怒りは「わかってほしい」という気持ち。
  • ◆意識的に、切り替えの合図を作ると◎。

「悲しみ」が教えてくれること

悲しみという感情は、自分にとってショッキングな喪失をこころの中で処理する「こころの喪」に服する期間なのです。つまり、静かに自分をいたわりなさいというサインにほかなりません。喪失体験を乗り越えるのには、やはり時間が必要だということを、悲しみという感情は教えてくれています。

愛する大切な人、あるいはペットなどを失う悲しい出来事は、誰しも経験することです。避けることはできません。悲しみは、こういうときに必ず経験しなければならない、免疫反応のようなものです。解熱剤のようにすぐ効く薬は見当たらず、未(いま)だに時間がいちばんの薬です。応急策としては「思い切り泣いてみる」など、自分を悲しみの感情にたっぷりと委ねてみることです。

泣くことで悲しみを発散させる「カタルシス(精神の浄化)」というやり方は、古代ギリシャ時代から知られている伝統的なものです。フロイトも精神分析の治療で用いていました。

  • ポイント
  • ◆悲しみを癒やすには時間が必要。
  • ◆あえて悲しい気分にどっぷり浸(つ)かってみよう。

「嫉妬」が教えてくれること

競争での敗北を受け入れられない悔しさが、嫉妬の背後にあります。嫌というほど自分の醜い部分を教えてくれるのが嫉妬です。とすれば、嫉妬はつらい競争から離れたほうがいいこと、つまり「別の土俵で勝負しなさい」ということを、暗に教えてくれています。嫌気がさしがちな自分を、認めてあげる近道です。

恋愛だけでなく、出世や経済状況、子どもの進学先など、社会的地位を競い合っての嫉妬も珍しくはありません。相手に対する劣等感と敗北感を伴う嫉妬は、強い怒りや悲しみにつながり、極端な行動に走る危険があります。冷静さを努めて意識することが第一歩です。

そして、嫉妬の原因を再確認します。次に、嫉妬に駆られてやってしまいそうな行動とその結果をイメージします。嫉妬による行動は、えてして自分自身も相手も痛めつけることが多いものです。建設的になるような未来をイメージして、行動していくことも、嫉妬から逃れるやり方でしょう。

  • ポイント
  • ◆嫉妬を感じたら、自分を認めてあげる合図。
  • ◆よりよい未来を想像して建設的な行動を。

「さみしさ」が教えてくれること

さみしさは、人間が他人とつながっていたい社会的な動物であることの証(あかし)です。さみしさという感情がなくなってしまえば、人とのつながりの必要性も、なくなってしまうでしょう。さみしさに向き合うことは、自分を見つめる機会となるだけでなく、他人への思いやりを育てます。結果的に、自分の成長を促してくれます。

さみしさは、「孤独」と縁の深い感情です。自分の気持ちを内にこもらせず、外に向けていくようにしてみましょう。いちばんわかりやすいのは人と直接会う、話すことですが、メールやSNSでのやりとりでも構いません。ただ人間には、孤独も適度に必要です。孤独と人とのつながりのバランスが大切なのです。友達に会ってばかりいる、あるいは誰とも口を利かないなど、極端を続けることは好ましくありません。

さみしいときは、自分を見つめ、他人の気持ちを想像するいい機会です。さみしいのは自分だけではないと思うことも、自分のさみしさとつき合う方法です。

  • ポイント
  • ◆自分を見つめる絶好の機会。
  • ◆ひとりの時間も、誰かとの時間も大切にして。

「落ち込み」が教えてくれること

チャーチルやリンカーン、ガンジーは、うつに近い落ち込みに悩んでいたそうです。こういった偉人だけに限らず、落ち込みというのは誰にでもあるこころの動きです。大切なのは、「落ち込まない」ことではなく、「落ち込んでもはね返す」こと。人間を大きく成長させるこの反発力を、落ち込みはわたしたちに教えてくれているわけです。

落ち込まない人間などいるはずがありません。外から見れば陽気で楽天的な人は、落ち込まない人ではなく、落ち込みをはね返すのが上手な人なのです。夜明け前がいちばん暗いという表現通り、落ち込んだときこそ大きな成長のための試練と考えましょう。落ち込みは一時的なものであると意識することが大切です。

意識した後は、行動です。人にグチってみる、仕事場を離れて歩いてみるなど、落ち込み思考から離れる自分なりのアクションをとることです。夜にかけて落ち込んでいるのなら、クヨクヨ考えるより寝てしまうのが、いちばんの対処法です。

  • ポイント
  • ◆落ち込むのは悪いことじゃない。
  • ◆必ず夜明けがくると信じて、静かに眠ろう。

(出典:「PHPスペシャル」2016年7月号)


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