こころの栄養(連載コラム)

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第四回

バカになって笑ってみよう!
幸せになるために大切な、たった一つのこと 監修:村上和雄

村上和雄(むらかみ かずお)
1936年生まれ。分子生物学者、筑波大学名誉教授。1983年、高血圧の黒幕である酵素「レニン」の遺伝子読解に成功し、世界的な業績として注目される。『どうせ生きるなら「バカ」がいい』(共著、水王舎)など、著書多数。

私たちは幸せになるために生まれてきた。それは、自分に正直に、素直に、笑顔で人生を楽しむことで実現するのです。

今の世の中には「バカ」が足りない

現代では、合理性や効率を追い求め、少しの労力で最大の成果を上げる「利口で賢い人間」が優れているとされます。しかし、そのような人々が「賢さ」を発揮できるのは、確実な知識やデータに基づいて正解を求められるときだけ。人生のなかで誰もがぶつかる、正解がわからないようなスケールの大きな問題の前では、「利口で賢い人間」でも案外右往左往してしまうものです。

最初から何でも知りすぎていると、人間は前に踏み出すことをためらいがち。「できなかったらどうしよう」と不安の先取りばかりをして、新しいことを始められないからです。つまり、賢くて頭が良い人ほど、抱え込んでいる不安や焦りも大きくなるのです。実際に、現代の日本において生きづらさを感じて心の健康を害し、医療機関にかかっている人は約320万人にものぼります。いったいこれはどうしたことでしょうか?

「科学者のくせに!」と叱られるかもしれませんが、私は今の世の中に足りないのは「バカ」だと思います。バカになるとはつまり、自分が心から喜べることに素直に邁進(まいしん)し、自分だけでなく人にも喜びをもたらし、思い切り笑って生きること。頭で賢く考え、理性を働かせて成功することを目的にするばかりでは、「生きていることそのものが幸せ」という状態から遠ざかってしまいます。しかし、バカになってしまえば、「人生どうなるかわからないのだから、不安に思ってもしかたがない」と笑って生きることができます。もっと単純に、人間としてバカになって感動し、楽しいことをしていれば、人生はおのずと幸せな方向に進むのです。

私たち人間の約60兆個の全細胞に刻まれた遺伝子情報は、驚くべきことに99.5パーセントまでが全人類共通です。99.5パーセントまで同じでありながら、必ず0.5パーセントの違いがある。つまりこれは、私たち一人ひとりが、自分だけのやり方で幸せになるために生まれてきたということではないでしょうか。この違いは、決して他人との優劣を比べるためのものではありません。だから、誰に何と言われようとも、自分の持って生まれたものをもっと愛して、幸せになることを許してもいいのです。

遺伝子のスイッチをオンにする

ヒトと、ヒトに一番近い生物・チンパンジーの全遺伝子情報を比較すると、その差はわずか3.9パーセントほど。しかも、ヒトにあってチンパンジーにはない遺伝子は存在しないことが判明しています。3.9パーセントの違いは、知覚や思考、記憶など、脳の高次機能を司(つかさど)る大脳皮質のしわの形成に関与する配列です。これにより意識や心の動きが生まれ、眠っていた遺伝子がオンになり、ヒトとチンパンジーの違いをもたらしたと私は考えています。

遺伝子には、生物にこのような進化をもたらすだけでなく、才能を伸ばし、心と体を健康にし、幸せになるための働きがまだまだたくさん眠っています。つまり、遺伝子のスイッチを良い方向にオンすることができれば、幸せのほうへと向けて大きく舵(かじ)を切ることができるのです。

では、遺伝子のスイッチは何によってオンになるのでしょう。

1997年、私は「心理ストレスが遺伝子のスイッチに作用する」という仮説を提唱しました。そして、吉本興業と一緒に「笑いという良いストレスが、遺伝子のスイッチに作用するか」という実験を行ないました。「なんてふざけた実験だ」と専門家仲間からもバカにされましたが、結果は良好。「笑い」で糖尿病患者の食後血糖値の上昇が抑えられることがデータ上で確認できました。この実験で、私たちヒトは、心の状態によって自らの遺伝子のスイッチをオン/オフしているということがわかったのです。

遺伝子のスイッチをオンにする「良いストレス」は笑いだけではありません。たとえば、困っている人を助けて感謝されたとき。利他行動による「良いストレス」もまた、遺伝子のスイッチをオンにします。また、自分に正直になり、やりたかったことができて、周囲の人たちを喜ばせたときにも遺伝子のスイッチはオンになります。

私たちは心の使い方を良いほうへ変えていくことで、遺伝子のスイッチをオンにできる生き物なのです。そのためにも、バカになって自分の生き方を貫き、物事を楽しむことができれば、心身ともによりよく生きることができ、幸せになれるというわけです。

人類を救う「笑い」の力

ここまで読まれてお気づきの通り、私たちが幸せになるには「自分に正直になって、よく笑うこと」が近道です。

ニーチェは「笑いとは、地球上で一番苦しんでいる動物が発明したものである」「笑いは世の中を変革する武器の一つにもなる」とまで言っています。失敗や挫折を経験したとき、「もうダメかもしれない」という絶望的な状況に陥ったときほど、「笑い」は力を発揮し、私たちを幸せな状態に戻してくれます。

オーストリアの精神科医・心理学者だったヴィクトール・フランクルが、自らのナチスの強制収容所体験を書いた『夜と霧』(みすず書房)という有名な本があります。フランクル博士は、いつ殺されてもおかしくない過酷な状況のなか、みんなで生き延びるために「一日一回笑おう」と呼びかけます。そして、笑いの力を「一日を生きる力」に変えていったのです。

また、アメリカには「難病を笑い飛ばした男」と呼ばれた人がいます。『笑いと治癒力』(岩波現代文庫)の著者であり、ジャーナリストだったノーマン・カズンズ氏は、生理学的な見地から、笑いと自然治癒力の関係を探りました。カズンズ氏は、50歳で強直性脊椎炎(きょうちょくせいせきついえん)を伴う難病の膠原病(こうげんびょう)を発症。医師から「全快の可能性は500分の1」と宣告されます。しかし彼は、「医師に見放された」とは思いませんでした。「医師に任せきりにせず、自分でなんとかしよう」と考え、処方された薬をやめて、これからの人生は「明るいこと」だけを考えようと決めたのです。病室でも、コミックやコメディ番組を観て大声で笑う時間を増やしたところ、明らかに身体に感じる痛みが減少。数カ月後には職場復帰を果たしたのです。

笑いは生物にとって副作用のない特効薬。「こうあらねばならない」という苦しい考えは捨てて、どんなに辛(つら)い状況にあるときでも、とにかくバカになって笑ってみてください。きっと、そこから幸せへの道が見えてくるはずです。

「バカになる」をやってみよう

「バカな生き方をする」というと、浮かれたバカ騒ぎを思い浮かべるかもしれませんが、決してそうではありません。「バカな生き方」とは、「どんなときも自分自身に素直である」ということ。楽観的で前向きで、嫌なことがあっても笑い飛ばして、自分のことにもみんなに対しても一生懸命に生きること。その人の近くにいると周りの人まで遺伝子のスイッチがオンになるような生き方です。反対に、何をするにも後ろ向きで否定的な反応しかしない人には、みんなが近づかなくなります。遺伝子のスイッチがオフされてしまうからです。

遺伝子のオン/オフには、その人の生き方、考え方が大きく影響しています。日頃から何かにつけて「自分はダメだ」と否定的に生きていると、いい働きをする遺伝子がオフになり、不幸の遺伝子がオンになってしまいます。それは本当にもったいないことです。

思い込みでもいいのです。一度、「自分は大丈夫」「生きているだけで丸儲(まるもう)け」「とにかく笑おう」とバカになって自分を信じてみてください。それだけでもきっと、自分の内側から溢(あふ)れる幸せを感じられるはずです。

(出典:「PHPスペシャル」2016年8月号、構成・文:杉本恭子)


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