チエネッタ

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2018.03.28

連載子育てデジタルシフトを考える

vol.02

「子育てデジタル化にどう向き合えばいいですか?」 デジタル教育の専門家・石戸奈々子さんに聞きました

写真:「子育てデジタル化にどう向き合えばいいですか?」 デジタル教育の専門家・石戸奈々子さんに聞きました

シリーズ「子育てデジタルシフトを考える」2回目は、子どもたちにデジタル体験を含むさまざまなワークショッププログラムを提供するNPO法人CANVAS理事長・石戸奈々子さんにインタビュー。子育てのデジタル化にどう向き合えばいいのか、専門家の視点からさまざまなヒントをいただきました。

石戸奈々子さんプロフィール

NPO法人CANVAS理事長/株式会社デジタルえほん代表取締役。2018年4月より慶応義塾大学教授。
東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、子ども向け創造・表現活動を推進する NPO「CANVAS」を設立。実行委員長をつとめる子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。総務省情報通信審議会委員、デジタル教科書教材協議会理事などを兼務。著書に「子どもの創造力スイッチ!遊びと学びのひみつ基地 CANVASの実践」、「デジタル教育宣言 スマホで遊ぶ子ども、学ぶ子どもの未来」、「デジタル教科書革命」など。デジタルえほん作家&一児の母としても奮闘中。

家庭でも職場でもデジタルが当たり前なように、
子育てのデジタル化も自然に受け止められるはず

写真:家庭でも職場でもデジタルが当たり前なように、子育てのデジタル化も自然に受け止められるはず

前回の記事では、子どもにデジタル機器やインターネットを使わせることに対して、親世代の意識を調査した「子育て中のデジタル機器とインターネットの利用に関するアンケート」の結果をご紹介しました。親世代のホンネには、デジタルへの期待と不安が半々といったところ 。

NPO法人CANVASを立ち上げてから15年間、デジタル・キッズを見てきた石戸さんに、まずは親たちの不安からぶつけてみました。

――チエネッタで行ったアンケートでは、子どもがデジタル機器を使うことに対して親世代が不安も感じていることが明らかになりました。身体的な影響とか......

写真:石戸奈々子さん

「姿勢が悪くなるのでは?」というのなら、姿勢が悪くならないように座り方やデバイスの向きを工夫すればいいと思いますし、視力低下が心配なのであれば一日の利用制限時間のルールをつくるなど使い方を決めるのが良いと思います。

新しいデバイスが出ると、必ず「子どもには持たせるな」という議論が起きて、「百害あって一利なし」と言われるんですけど、100%が利である技術や道具はないと思うんです。今の子どもたちは、これからデジタル機器を持たず、ネットワークにもつながらずに生きていくのは難しいですよね? であれば、「どうすれば百害一利ではなく、百利一害にできるのか」を考えるのが大人の役割ではないでしょうか。

私もそうですが、学生時代からケータイを持って過ごしてきた世代が親になっています。思春期から、デジタル機器やインターネットの利便性を知り尽くした世代が親になった今、むやみやたらな不安は以前と比較して減ってきたと思います。

――浸透してきたからこそとも言えますが、新しい不安としては、SNSからトラブルに巻き込まれるケースも出ていますね。

写真:石戸奈々子さん

そうですね。家庭内でのルールづくり、フィルタリングの導入や機能制限など、技術的な解決策も講じておく必要があります。

子どもたちをトラブルから守るうえでは「持たせない」という解決方法が一番簡単かもしれません。でも、全部禁止しておいて、ある年齢になったときに突然社会の荒波に放り込むことの方が危ないと思うのです。むしろ、きちんとデジタルのメリット・デメリットや、良い使い方を教えていくことが大事ではないでしょうか。

教育の分野では、いまだにデジタルを活用することのメリット・デメリットの議論がされています。私が疑問に思うのは、家庭にも職場にもデジタルが入っていて、その利便性をみんなが理解しているし、それがないと生活も仕事も成立しないインフラになっているのに、どうして子育てや教育の分野だけがメリットをいまだに問われるのか、ということなんです。

今の子どもたちは、自ら仕事を作り出していかなくてはいけない世代。新しいテクノロジーを使いこなして、想像力豊かに新しい社会をつくってもらえる環境をつくるべきだと思います。

動画を見せるだけが子育てのデジタル化じゃない!

写真:動画を見せるだけが子育てのデジタル化じゃない!

石戸さんは、大学卒業後、海外の研究機関にて「デジタル社会の未来を築いていくのは子どもたちだ」という思想に出会いました。「日本にデジタルを活用した新しい表現をする子どもたちが育まれる環境をつくりたい」と帰国しCANVASを立ち上げました。

――CANVASを立ち上げた2002年当時、子どもとデジタルの状況はいかがでしたか?

写真:石戸奈々子さん

NTTdocomoのiモードが爆発的にヒットして、若い人たちが携帯電話を使いはじめた頃ですね。急激に変わっていく世の中を生きる子どもたちには、多様な人たちと協働して新しい価値観を作り出す力が必要です。旧来の知識の習得・暗記を中心とした教育ではなく、新しい形を生み出すためのコミュニケーション力、想像力や創造力を身につける必要があるだろうと考えて活動を始めました。

――活動を始められて15年が過ぎた今、どんな変化がありましたか?

写真:石戸奈々子さん

2010年がひとつのターニングポイントでした。その頃、タブレットやスマートフォンなど、パソコン、ケータイに次ぐ新しいメディア群が一斉に登場し、デジタル教育に役立つ道具の具体像が見えるようになってきました。そして、デジタル教育の分野に対する保護者の関心も急速に高まりました。私たちの活動にも追い風になりました。

2017年のスマートフォン保有率は92.4%(※1)で、テレビとほとんど変わりません。スマートフォンやタブレットが生活に入ってきて、コンピューターは非常に身近になりました。さらには、コンピューターが、パソコンを超えてあらゆるモノ、分野、環境に溶け込み、定着し、それらを制御するものとなってきました。仕事にも勉強にも買い物にもコンピューターが入ってきています。ご飯を炊くときも、洗濯をするときも、テレビを見るときも。車もコンピューターと化し、掃除にはロボットが活躍しています。生活・文化・社会・経済のあらゆる場面で、私たちの生活をコンピューターが支えています。コンピューターの方が人間に近づいてきたという見方もできますね。

――そうした流れにあって、子育ての現場にはデジタルはどんな風に浸透しているでしょう。

写真:石戸奈々子さん

スマートフォンを持っている保護者は、なんらかの形で子育てにスマートフォンを活かしているのではないでしょうか。私自身、子どもが生まれてからインターネットでの買い物が増えました。みなさんスマホで子どもの写真を撮り、インターネット上にアルバムをつくったり、おじいちゃん・おばあちゃんに動画を送るなどの利用もされていますよね。何も子どもに使わせることだけが子育てのデジタル化ではなく、家事をデジタルで効率化して、子どもと向き合う時間を増やすことも子育てのデジタル化ですよね。生活の中にコンピューターが入ってきたわけで、自然な流れだと思います。

話題のプログラミング教育がめざすのは
プログラマーの育成ではなく、「学び方を学ぶ」こと

写真:話題のプログラミング教育がめざすのはプログラマーの育成ではなく、「学び方を学ぶ」こと

石戸さんが所属していた頃、MITメディアラボでは、途上国の子どもたちに100ドルのパソコンを配る「100ドルパソコン」というプロジェクトに挑戦していたそう。学校もなく、教科書も買えない子どもたちにとって、ネットワークにつながるパソコンは学びへの一番の近道。実は、教育格差の是正という課題も、デジタル機器に期待される役割のひとつなのです。

デジタルが教育現場に浸透していくことによって、子どもたちの学びにはどんな可能性が期待されているのでしょうか。

――デジタル教育によって、子どもたちはどんな力を育まれていくと思われますか?

写真:石戸奈々子さん

これからを生きる子どもたちに必要な力は、世界の多様な価値観の人たちと恊働して新しい価値を作り出していく力だと考えています。コミュニケーション力と創造力の2つですね。情報化社会になったからこそ子どもたちに求められる力は変わってきてますし、それに伴いそれを育む学習環境も変化が求められます。その変化をデジタルの力を通じて実現することができるのではないかと考えています。

――プログラミングの必修化もそのひとつでしょうか?

写真:石戸奈々子さん

プログラミング教育と聞くとプログラミング言語を学ぶ高度な科目が入ってくるのではないかと、不安に思われる方もいるようですが、学校で必修化するのはあくまでも考え方としてのプログラミングであり、プログラマーの育成をめざすものではありません。国語の授業があるからといってみんなが作家になるわけではないし、音楽の授業があるからといってみんながミュージシャンになるわけではありません。それと同じです。

これからを生きる子どもたちは、将来どんな職業についても何らかのICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)と関わる人生を歩んでいきます。コンピューターの原理原則を知っているかどうかで、働き方や生き方が大きく変わってきます。これからは「読み・書き・プログラミング」の時代。「プログラミングを学ぶ」のではなく「プログラミング"で"学ぶ」という意味合いが強いと思います。

――なるほど。プログラミングそのものを学ぶだけでなく、教科のなかに組み込まれているのですね。

写真:石戸奈々子さん

理科ではゴムの力を計測するシミュレーターをつくったり、 音楽の授業ではプログラミングで作曲をして楽器で演奏をしてみたり、社会の時間でロボットを活用して社会課題を解決する方法を考えてみたり。知識を学んで終わりにするのではなく、その知識を活用する力につながります。つくりながら学習すると、学んだ知識を深め、さらには様々な知識を統合し、応用することを自然と行うようになるのです。プログラミングを通じて、論理的に考え問題を解決する力、他者と協働して新しい価値をつくりだす力が育まれるといいなと思います。

そもそも、今主流とされるプログラミング言語は、10年後にも使われているかどうかわかりません。特定のスキルや知識ではなく、学び方を学んでほしいと思います。いまだかつて誰もが経験したことがないほどに変化が激しい時代。生涯にわたって学び続ける力があれば、変化の激しい時代であっても柔軟に対応できるわけですよね。

親子で取り組むデジタル教育、この先どうなる?

写真:親子で取り組むデジタル教育、この先どうなる?

2011年4月、文部科学省は「教育の情報化ビジョン」を発表。「21世紀を生きる子どもたちに求められる力」と「21世紀にふさわしい学び・学校と教育の情報化の果たす役割」を定義し、2020年には「1人1台の情報端末を活用した学習を推進」し、プログラミング教育を必修化することを目標に掲げました。プログラミング教育の狙いのように、正しく理解することで親たちもより、子育てのデジタル化に期待が高まるのではないでしょうか。

最後に日本での教育のデジタル化への現状評価と、今後の展望を伺いました。

――2020年にプログラミング教育が始まりますが、諸外国と比較して日本の状況はいかがですか?

写真:石戸奈々子さん

学校における教育用コンピューター台数は5.9人に1台、Wi-Fi整備率は29.6%という状況(※2)で、教育情報化の面では後進国といってもいい状況です。パソコンがない、いまだにネットワークにつながっていないというわけです。

国からは、学校のICT環境を整備するために、「教育のIT化に向けた環境整備4か年計画」が閣議決定され、平成26〜29年度まで単年度1678億円(総額6712億円)の地方財政措置が講じられています。しかし、そのお金が学校のICT環境整備に使われていない自治体もあり、自治体間の格差は最大で約8倍まで広がっているのです。

――「ネット接続が遅い」「パソコンが古い」となると、子どもたちの学びの意欲をそいでしまいそうです。

写真:石戸奈々子さん

そうですね。昔、学校は最先端の場所でした。プール、テレビ、顕微鏡。学校でしか触れないものがありワクワクする場だったと思います。しかし、今では家庭よりも学校の方が遅れています。いち早く環境を整備し、学校を最先端の学びの場にするべきです。

――石戸さんは、デジタル教育の未来をどんな風に思い描いていますか?

写真:石戸奈々子さん

日本の子どもたちが、世界中で最もクリエイティブで新しいものをつくり続ける存在であってほしいと願っています。社会は、有形無形によらず誰か人間がつくったものによって構成されています。いまの子どもたちが大人になる頃にはたくさんの仕事がなくなっているといわれます。おそらくそうなるでしょう。でも今世界を席巻する大きなIT企業の多くもここ数十年で生まれてきました。新しい技術を手にしたデジタル・キッズは、新たな仕事をつくりだしていく世代。子どもたちには学んでイメージするだけでなく、実際に形にする、実際にアクションを起こす力を育んでほしいですね。そして子どもたちが新しい未来社会を築いてくれると期待しています。

子育てのデジタル化を考えるときにまず、子どもたちがこれから生きる社会を思い浮かべる。たしかに石戸さんの言うとおり、デジタル機器も、インターネットもない社会は考えられないですよね。そんな子どもたちの未来のために、大人と子どもが一緒により良い使い方を考えていけたら、ワクワクする社会を思い描けそうです。

さて、連載最終回はそんな希望に満ちた未来の学校教育の姿を探して、最先端のデジタル教育を進めている小学校の授業を前後編でレポート! 先生方へのインタビューと併せてお届けします。どうぞお楽しみに。

※1 ベネッセ調査「第2回 乳幼児の親子のメディア活用調査 速報版 (2017年)」
※2 文部科学省「平成28年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」

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