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公開日:2021.03.31

FrontRunner with ICT ~ICTで変わる未来~ 教育編 教育改革実業家 藤原和博氏

FrontRunner with ICT ~ICTで変わる未来~ 教育編 教育改革実業家 藤原和博氏

人やモノ、場所などをデータでつなぐ情報通信技術「ICT」。IoTや5G、AI、自動運転といった技術革新が進む中で、私たちの生活は今後どのように変化していくのでしょうか?この企画では、業界のフロントランナーをお招きし、その分野で「これから訪れるであろう未来」についてお話しいただきます。

今回のテーマは「教育×ICT」。和田中学校・一条高校の元校長で教育改革実践家の藤原和博氏に話をうかがいました。

教育改革実業家 藤原和博氏

PROFILE

教育改革実践家 藤原和博氏
「朝礼だけの学校」校長、元リクルート社フェロー、和田中学校・一条高校元校長。東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、ヨーロッパ駐在、そして同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務めた後は、橋下大阪府知事特別顧問、武雄市特別顧問、奈良市立一条高校校長として活躍し、現在講演は1500回を超え、延べ25万人以上を動員する人気講師。書籍は累計87冊150万部。YouTube150万回超再生。
「朝礼だけの学校」校長
藤原和博のよのなかnet

スマホを活用した教育「スーパー・スマート・スクール」を公立高校で実践

「スーパー・スマート・スクール」を実践した藤原和博氏

――奈良市の一条高校では、スマホを活用した教育「スーパー・スマート・スクール」を実践されました。スマホに着目した理由を教えてください。

そもそもは2008年に大阪府知事の特別顧問に就任したとき、市内の中学校の授業で試験的に携帯電話を活用したのがきっかけです。私はモバイル端末を「発信機」として着目していて、アクティブラーニング(能動的学習)を実現する「Cラーニング」というサービスと掛け合わせて生徒の意見を集約することを提案しました。

中学校の授業で試験的に携帯電話を活用

「教育にICTを」というと、電子黒板の設置やタブレット貸与といったハードの整備が叫ばれますが、本質的にはICTを使って何をするのかが肝心です。私は、児童や生徒から先生へ情報を逆流させることが必要と考えていたので、2016年に一条高校に校長として赴任すると、大阪市での結果を踏まえて「スーパー・スマート・スクール」を実践しました。

――「スーパー・スマート・スクール」では、具体的にどういったことが行われたのでしょうか?

生徒のスマホをWi-Fiでつなげて、意見や質問を無記名で投稿できるようにしました。スマホで打ち込んだものが「Cラーニング」を通じて、教室のスクリーンに表示される仕組みです。

通常の一斉授業では分かる生徒だけが手を挙げて回答し、それ以外の生徒の思考が止まってしまうという場面がたびたび見受けられますが、スマホを使って打ち込むように指示すると、生徒たちが意見を言う確率が上がり、質と量が向上しました。普段からスマホに慣れ親しんでいるので、その打ち込むスピードはとても速い。2分間で200文字くらいは軽く打ちこんできます。スマホとC-ラーニングのようなソフトを組み合わせることで、授業は画期的に双方向性のあるものとなりました。

スマホを授業で活用する有用性について話す藤原和博氏

――スマホを教室に持ち込むとなると、さまざまな懸念が想像されますが、どのように対処したのでしょうか?

スマホを持っていない生徒には貸与することにし、一条高校は1,000人規模の学校でしたので、100台ほど用意しましたね。

それと、ルールについては生徒たちに作ってもらい、厳格に運用しました。「スマホを持ち込む場所は教室と図書室に限る」「先生の指示に従ってスマホを操作する」「廊下やグラウンドで"歩きスマホ"禁止」などです。一条高校では、先生が生徒たちと信頼関係を築いてくれていましたので、スムーズに導入できました。

スマホを学校で活用する際のルールついて話す藤原和博氏

――「スーパー・スマート・スクール」によって、どのような成果が見られましたか?

まず先生たちの事務負担が軽減しました。例えば年に一度、学校評価と呼ばれる全70項目ほどにわたるアンケートを生徒や保護者に実施していたのですが、それまでは紙での記入だったため、データ集計のために先生が手打ちで結果を入力し直す必要がありました。これを保護者が自宅からスマホで回答できるようにしたことで、集計作業が一気に楽になったのです。

一方、生徒への影響ですが、こちらは安易に口にしないようにしています。「思考力や判断力、表現力が高まった」などと後付けでは何とでも言えますが、教育というのは一朝一夕に何かが変わるものではないからです。ただ、一条高校では私が2018年に校長を退任してからも「スーパー・スマート・スクール」を続けていますし、今年からは東京都立富士高等学校・附属中学校が一条高校に倣ってスマホを授業に持ち込みます。そういった事実が、成果を物語っているのではないでしょうか。

コロナ禍で教育のオンライン化が加速。ICT活用のポイントは?

オンライン教育におけるICT活用のポイントについて話す藤原和博氏

――コロナ禍により、教育現場のオンライン化が今まで以上に推進されています。

学校の先生に限らず、どんな職業もロボットやAIと協業する時代に突入します。授業においてもオンラインのコンテンツを活用した形になっていくでしょう。しかし、単に対面授業をオンラインで配信したり、紙の教科書をタブレットで映したりするだけではICTを活用する意味がありません。教室の景色を変えることが必要です。

導入が進むオンライン教育

――「教室の景色を変える」とは、どういったことでしょうか?

オンライン授業を見てどんどんひとりで学んでいけるのは、私の実感として偏差値が65以上のごくわずかな生徒たちだけ。そのほかの生徒たちについては先生がフォローしてあげないといけません。そこで画期的なのが、教員とオンライン動画のハイブリッド型の授業です。

スクリーンで動画を流し、先生は生徒たちと一緒に観ながら、わからないところに解説を加えたり、動画が教えてくれる知識のサポートをしたりしてあげる。先生はファシリテーターの役割を務めるということですね。

教員とオンライン動画によるハイブリッド型の授業を行うことの重要性ついて話す藤原和博氏

――先生が授業をせず、他の人に任せてしまうのは斬新ですね。

小学校では担任が全教科を教えていますが、先生も人間ですから不得手な科目があって当然です。そこで注目したいのが、その教科のその単元を教える「最高の先生」の動画。これだけオンライン上に授業動画が豊富にアップされていれば、算数であったり、理科であったりその教科の教え方がうまい先生はきっといるはず。それをうまく活用し、「動画の先生」とコラボしながら、理解の進まない生徒をフォローしてあげればいいのです。

たとえば担任の先生が算数を教えるのが得意なら問題ありませんが、そうでないと不幸。運に左右されるのは不平等です。不得意な科目は得意な人の力を借りて授業した方が、先生と生徒の双方にとって良いはずです。

これからの学校の在り方について話す藤原和博氏

――ICT活用によって「教室の景色を変える」には、どのようなことを配慮すべきでしょうか?

第一に、経済的にスマホやネット環境を用意できない家庭に対しては行政や学校が支援しなければなりません。ちなみに一条高校のある奈良市では、コロナ禍によってオンラインでの学習支援を開始するにあたって、利用環境がない家庭にタブレット端末やWi-Fiルータをそれぞれ約400台貸し出すことを昨年4月の段階で早々に決定しました。なお、高校生まではパソコンやタブレットより、操作に慣れているスマホを活用するのが良いでしょう。

次に、多数を占める学力が中程度の生徒たちの引き上げ。この層を伸ばすことの社会的意義は非常に大きいと思っています。和田中学校で取り組んだ事例を紹介すると、英語の成績優秀者に教える役割を担ってもらいました。学校というのは「わかったつもりになる」場所。他人に教えられるようになって、問題を作れるようになって、初めて「わかった」と言えるのです。成績優秀者が先生の側に回るとフォローが手厚くなり、「わかったつもり」だった生徒が徐々に「わかった」状態へ。学び合えるようになると全体の学力が向上し、和田中学校は英検準2級取得者ランキングで全国の国公立1万校のうち、40位以内にランクインしたことがあります。

最後に、生徒指導上の対応が困難な生徒に強いサポートをしてあげることです。私は学校の存在意義について「国の安全保障」と位置づけています。ドロップアウトしてしまいそうな子どもたちを学校がギリギリのところで支えている側面があるのです。この部分は、先生たちの人間力無しでは成り立ちません。

ICTによって教室と世の中をつなぐ。これからの学校の在り方

ICTによって教室と世の中をつなぐべきと話す藤原和博氏

――これからの学校の在り方はどうあるべきだと考えますか?

「屋根のない学校」や「壁のない教室」などと表現されますが、ICTによって教室と世の中をつなぐべきです。正解を暗記するだけでは通用しない社会になり、"情報を処理する力"ではなく"情報を編集する力"を養わなければなりませんが、その教材として世の中で起きている出来事以上のものはありません。現在、AO入試を取り入れ、面接やグループディスカッション、論文によって思考力や判断力、表現力を評価する大学が増えていますが、その傾向は今後ますます強まっていくでしょう。もう学校や教室が閉ざされる時代は終わりました。ただ、集団で学ぶスタイルは維持した方が良い。集団だから学び合うことができるし、生徒指導上のトラブルを未然に防げたりもしますから。

そして、学校の機能をシェアしたりアウトソースしたりすべきだと考えます。先ほど、先生が不得意な科目については他の先生の授業をオンラインで見せてもいいと話をしましたが、それも一例です。日本の学校の先生は負担が大きすぎて、教育改革を阻害しています。学校を軸にして、世の中の大人たちが子どもたちの教育を少しずつ担うのが理想です。

アダプティブ・ラーニングの実現について話す藤原和博氏

――そのような未来に向けて、藤原先生のビジョンはありますか?

今年3月に「朝礼だけの学校」というオンライン上の学校を本開校しました。「朝礼だけの学校」は"情報を編集する力"に特化し、正解がひとつだけではない問題に対し、高校生をはじめとした子どもたちと大人とがディベートを重ねます。私自身が"情報を編集する力"の授業に自信があるから開催するのですが、同じように「〇〇だけの学校」がたくさん立ち上がってほしいですね。子どもたちが選べる選択肢が多くなれば、個別のカリキュラムが可能となり、ひとりひとりに合った学習方法「アダプティブ・ラーニング」が実現します。

アダプティブ・ラーニングの実現について話す藤原和博氏2

「日本の教育は先進国の中で遅れている」。そんなネガティブな話をよく聞きます。しかし、教育は国の根幹にかかわるため、諸問題を先延ばしにしたり放置したりしておくべきではありません。藤原先生が指摘したように、ICT活用においてはハードよりもソフトに目を向けることが大切なのでしょう。今は過渡期ですが、ICTが日本の教育の救世主になる日がすぐ近くまで訪れていることを期待したいです。

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チエネッタ編集部

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