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公開日:2021.02.25

FrontRunner with ICT ~ICTで変わる未来~ 人材採用編 ワンキャリア取締役 北野唯我氏

FrontRunner with ICT ~ICTで変わる未来~ 人材採用編 ワンキャリア取締役 北野唯我氏

人やモノ、場所などをデータでつなぐ情報通信技術「ICT」。IoTや5G、AI、自動運転といった技術革新が進む中で、私たちの生活は今後どのように変化していくのでしょうか?この企画では、業界のフロントランナーをお招きし、その分野で「これから訪れるであろう未来」についてお話しいただきます。

今回のテーマは「人材採用×ICT」。著書に『転職の思考法』や『天才を殺す凡人』を持つ株式会社ワンキャリア 取締役の北野唯我氏に話をうかがいました。

株式会社ワンキャリア 取締役 北野唯我氏

PROFILE

株式会社ワンキャリア 取締役 北野唯我氏
神戸大学経営学部卒。博報堂・ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。子会社代表取締役などを経て、現在、同社の取締役として人事領域・戦略領域・広報クリエイティブ領域を統括。テレビ番組や新聞、ビジネス誌などで「職業人生の設計」「組織戦略」の専門家としてコメントを寄せる。また、作家としても活動し、30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が20万部、続く『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)が12万部などで累計40万部。最新作に『内定者への手紙』がある。
Twitter @yuigak

HR業界を変える。「人員配置」が日本経済低迷の要因

「人員配置」が日本経済低迷の要因であると警鐘を鳴らす北野唯我氏

――新卒で博報堂に入社されていますが、なぜHR業界で働くに至ったのでしょうか?

学生時代から社会課題に興味があり、当時は「日本経済低迷の要因はマーケティングで解決できる」と考えていました。そこで博報堂に入社したのですが、働くうちに、この課題を広告代理店で本質的に解決するのは難しいと感じるようになって、退職を決意しました。

もともと「国家戦略に関する本を書きたい」という夢を持っていたので、退職後は渡米し、アメリカの強さの源泉を自分なりに観察しました。アメリカではたくさんの気づきがありましたが、そのひとつが中華圏の人々のパワーでした。近い将来、彼らが世界経済の一翼を担うだろうとの予測を立てられたので、英語に続いて中国語を習得するため、台湾に渡りました。

その後は日本に戻ってボストンコンサルティンググループに再就職し、約1年働いてワンキャリアへ。転職最大の理由は、知見を深める中で「日本経済低迷の要因は人員配置にある」というアロケーション仮説を持つようになったことです。

アロケーション仮説を持つようになったと話す北野唯我氏

――マーケティングではなく、人員配置がすべての元凶であると?

著書『転職の思考法』にも書いているのですが、2015年の国税庁の調査をもとに日本のGDPを業界別に1人あたりで分析していくと、最も高い業界と最も低い業界とでは20倍ほどの差がありました。

これは、GDPに対して1,000万円の影響を与える人が働く業界を変えるだけで、その与える影響が2億円にまで膨らむ可能性があることを示唆しています。しかも、約20業界のうち、1人あたりのGDPが低い下位3つくらいの業界に入職者のおよそ35%が集中していました。毎年生産性を向上できたとしても20倍もの差を埋めるのはかなり難しく、これでは国全体の生産性が上がらなくて当然です。
※毎年新たに働き始める入職者のうち、転職入職者数を除いた数

では、どうするか。人材の流動性を担保し、生産性の低い業界から高い業界に移動してもらえば日本のGDPの底上げは可能ではないか、と考えました。だから僕はこのアロケーション問題を少しでも変えたいと思い、HRのフィールドに飛び込みました。ワンキャリアを選んだのは、当時10人以下の会社で、実際に経営をやってみたかったのが大きかったですね。

ワンキャリアへ参画した理由を話す北野唯我氏

――ワンキャリアではどのような仕事に携わっているのですか?

最初はコンテンツ事業の立ち上げと、マーケティング全体を見ていました。現在は、取締役として、学生・求職者の領域における戦略、人事、広報・クリエイティブの責任者を務めています。作家としても活動していますが、意図せずして残ってしまった昭和の呪いを解くのが自分の使命と認識しています。たとえば、悩んで苦しんで転職を決断した人に対し「裏切り者」などのレッテルを貼ってエネルギーを奪う行為は、今の時代に合っていないと断言せざるを得ません。そういった風潮を事業や書籍を通して破壊したいです。

誰を正社員にすべきか。新型コロナで一変した企業の採用戦略

新型コロナで一変した企業の採用戦略について話す北野唯我氏

――ICTの進化や少子化に伴う労働人口の減少、終身雇用の終焉などを受け、採用市場はどう変化していますか?

昨年、新型コロナウイルスの感染が拡大したこともあって、我々が中心となって採用市場のDXをかなり進めた自負があります。採用説明会や面接など、オンラインでできることは一気に移行しました。特に採用説明会は、オンラインで行なった方が生産性は格段に上がります。自分が就活をしていた頃もそうでしたが、地方で暮らしていたので、わざわざ東京の会社の説明会に出向くのが大変でした。けれど、オンラインで開催すれば、そういった学生たちの負担軽減にもつながります。

我々は他社に先駆けてYouTube上で採用説明会を開催しましたが、初回の大型ライブは2万人以上がエントリーしてくれました。就職活動生がおよそ40万人ですので、ひとつのマーケットにおいて5%を占めるのは驚異的です。

ICTの進化に伴う採用市場の変化について話す北野唯我氏

――そんな中、企業の採用戦略はどうすべきなのでしょうか?

誰を正社員にすべきか、その問いに対する答えが一変したように感じています。というのも、リモートワークの浸透により時間単位あたりで仕事の成果が切り取りやすくなった今、技術的なスキルが高い社員については、業務委託で契約をした方が、双方にメリットがあるのではとの考えが出てきているからです。企業側は正社員雇用よりもコストを削減でき、社員側には複数企業との契約による収入アップの可能性が生まれます。

そのため、これからは企業の「ビジョン・ミッション・バリュー」といった言葉に象徴されるように、組織のカルチャーを体現している人の採用優先度が高くなるのではと、市場を見ています。働く側も、キャリアを考える際には自分がどちらのタイプかを見つめ直すと良いと思います。

採用コミュニケーションのポイントは、主語をひとつに限定しないこと

採用コミュニケーションのポイントについて話す北野唯我氏

――採用のDXが進み、様変わりした部分もあるかと思います。どのような採用手法が有効でしょうか?

母集団を形成して、面接して、内定を出して、内定者をフォローして、といった採用のフロー自体は変わってはいません。説明会や面接といったオンラインでできることは早期に移行し、効率化していくべきでしょう。

ただ、内定承諾や内定者フォローなどに関しては時間をかける必要があります。内定者の漠然とした不安を取り除いてあげるには物理的な時間を共に過ごすしかありません。他をオンラインで効率化している分、リアルで会う機会の価値が相対的に上がるはずです。

人材採用のDXについて話す北野唯我氏

――採用活動に苦戦している企業が少なくないように見受けられますが、オンライン上の採用コミュニケーションを円滑にするポイントがあれば教えてください。

企業の内側から染み出すものをコンテンツ化していくのは大切です。方法論としてはSNSでもオウンドメディアでも構いませんが、注意すべきは「主語をひとつに限定しないこと」。Amazonで買い物をするとき、レビューを見ない人はほとんどいないでしょう。企業側の熱心なPRはさらっと読み流してレビューを確認し、そのうえで友だちに聞いてみたり、SNSで評判をチェックしたりしてから購入するかどうかを決定します。これと同じで、採用コミュニケーションにおいても「私(企業)が」と主語がひとつだけのメッセージは届きにくい。

求人広告をはじめ、SNSもオウンドメディアもクチコミサイトもトータルに活用しながら、主語をひとつに限定せず、内側から染み出すものをコンテンツ化していくと良いでしょう。

企業が採用活動時に注意すべきポイントについて話す北野唯我氏

――北野さんは以前から「嘘がバレる時代になった」と仰っていますが、「内側から染み出す」のが大事なんですね。

「嘘がバレる」というのは3年くらい前からのトレンドで、さすがに受け入れなければなりません。隠ぺいしてもSNSに晒されたり、クチコミサイトに書き込まれたり、誰かがリークします。昔は企業の人事部だけが保有していたデータが、世の中のデータベースにオープンになりました。採用サイトで「尖っている人を募集しています」と必死に訴えても、実態が全く違えば、すぐにバレてしまいますからね(笑)。

採用のDXをさらに進め、複雑を極める日本のHRの課題を解決したい

採用のDXを進めたいと話す北野唯我氏

――最後に、北野さんの今後の展望を教えてください。

採用のDXをさらに進めていきたいですね。非効率なプロセスはICTの力でどんどん効率化できればと考えています。そして、人員配置に代表される日本のHRの課題を解決したい。日本は、それさえできれば最高の国になれます。海外に留学していたからこそ、身に染みて感じますね。

しかし、この課題にはさまざまな事情が複合的に絡み合っていて、なかなか一筋縄ではいきません。働くことと生きることは非常に密接な関係なので、例えば、新築一括35年ローン問題も転職を阻んでいる要因のひとつだったりします。中古不動産市場が活性化し、中古物件の売買が一般的になれば、居住地に縛られることがなくなるので、今よりも転職しやすくなる人が増えるでしょう。また、日本の従業員満足度が諸外国に比べて低いのは、おそらく満員電車も関係しているでしょう。

このようにHRの課題の構造は複雑を極めていますが、一歩ずつ少しずつ積み重ねていけば変えていけるのではないかと信じて取り組んでいる最中です。

日本のHR課題を解決したいと今後の展望について話す北野唯我氏

新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛も相まって、採用のDXは飛躍的な進化を遂げたようです。しかし、北野さんのお話をうかがっていると、HRの課題解決に向けてようやくスタートラインに立った印象も受けました。企業と働く側の意識改革が起きれば、日本は再興する。労働環境を激変させるICTのさらなる発展にも注視したいところです。

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チエネッタ編集部

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