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審査22-956-1
公開日:2020.03.27
本来は、柔軟な働き方を叶えるためのリモートワーク。ですが一方で、時間外労働はどのようにカウントしたらいいのか、そもそも時間外労働はカウントされるのか、などさまざまな疑問が浮かんでくる働き方でもあります。そこで今回は、リモートワークの疑問について、専門家にアドバイスをいただきました。
PROFILE
榊 裕葵(さかき ゆうき)
特定社会保険労務士・CFP
ポライト社会保険労務士法人 マネージング・パートナー
東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務する。独立後、個人事務所を経て、ポライト社会保険労務士法人を設立。会社員時代の経験を生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。
働き方改革で、2019年4月より労働基準法をはじめとする関連法が改正されました。時間外労働、言わば残業に大きく関係する「36協定(さぶろくきょうてい)」もそのひとつ。大手企業は2019年4月に改正対象とされ、その一年後の2020年4月に中小企業も新しい法律の対象となります。では一体この「36協定」とはどんな内容の法律なのか、そして改正後はどのように変化したのかについて、社労士である榊さんに疑問をぶつけてみました。
――36協定とはどんな法律なのですか?
前提として、国が定める法定労働時間は1日8時間、週40時間とされています。「36協定」は、それ以上の時間外労働を、企業が労働者に命じる場合に労使間で結ぶ協定のことを指します。企業はこの36協定を結ばずに労働者に対して時間外労働を命じることはできません。
――改正後、法律の内容はどのように変更したのでしょう?
定められた時間外労働の上限を超える労働を企業が命じた場合、罰則が与えられます。実は、法改正前も時間外労働の上限は定められていたのですが、あくまで厚生労働省が提示する目安時間という形で、上限を超えたとしても企業が法に触れることはありませんでした。定められた時間は変わらないものの、そこに法的強制力が持たされたという感じですね。
――36協定で定められた時間外労働の上限とは何時間なのでしょうか。
原則として、月45時間・年360時間以内とされています。特別な事情があって労使が合意する場合(いわゆる「特別条項」)であっても、月45時間を超えることができるのは年6回までで、その際の上限は月100時間未満(休日労働含む)。さらに、2〜6ヵ月で時間外労働を平均した場合、ひと月当たり80時間以内(休日労働含む)、1年当たり720時間以内(休日労働は含まない)とされています。
――この上限を超えた労働を企業が命じた場合、どのような罰則が科せられるのでしょう?
民事と刑事両方の罰則が与えられる可能性があります。まず民事では、損害賠償として時間外労働分の未払い賃金を払わなくてはいけません。刑事では最大6ヵ月の懲役、最高30万円の罰金が科せられます。刑事に至るケースは中々少ないですが、刑事罰が科せられることになったら、法人だけでなく、長時間労働に意思決定を下した責任者個人も罰を受ける可能性があります。
――この36協定は2020年4月から、大手企業だけでなく中小企業も改正の対象となります。そもそも中小企業とはどのような会社が当てはまるのでしょうか?
資本金と労働者数の二つの指標があります。自社の業種が、そのいずれかを満たす場合、中小企業にカテゴライズされます。一つの企業がいくつかのサービスを展開している場合は、その企業が主力としている業種が適用されることになります。
今後、長時間労働を是正するために、柔軟な働き方のひとつとしてリモートワークを取り入れていく会社も多いはず。ですが、自由な勤務スタイルゆえに長時間労働を招いてしまう可能性も。そこで、リモートワークの基本的な知識や、リモートワークを行う際の注意点を伺いました。
――自宅以外で仕事をすることもリモートワークに含まれるのですか?
そうですね。リモートワークは在宅勤務より広い意味で使われていて、オフィス以外で仕事をするケース全てを指します。たとえば、コワーキングスペースやカフェ、ホテルのラウンジや電車など移動時間中での仕事もリモートワークに含まれます。
――勤務時間はどう管理されているのでしょうか?
リモートワークの勤務形態によりますね。一般的にリモートワークには「みなし労働時間制」と「実労働時間制」の二つの勤務形態のいずれかが適用されます。「みなし労働時間制」とは、実際の労働時間に関わらず、定められた時間分を労働したとみなす制度のこと。対して「実労働時間制」は、始業から就業時間まで稼働時間が定められている、一般的なオフィス勤務と同じ勤務時間制度を指します。
――「みなし労働時間」と「実労働時間」はそれぞれどんな職種に適用されるのですか?
たとえば資料作成や企画考案など、場所に縛られず自分のペースで行える業務を任されている場合は「みなし労働時間制」が適用されることが多いですね。「実労働時間制」はチャットサポートやコールセンターなど、営業時間内はお客様の対応をしなくてはいけないような職種に適用される傾向にあります。そのため「実労働時間制」の場合は営業時間に準じた休憩を取ることになります。
――「みなし労働時間制」が適用されていたら、休憩時間は自分で決めて取っても良いのでしょうか?
自分のペースで進めても構わない業務や、育児や介護との両立を前提としたリモートワークの場合は、比較的自由に休憩や食事をすることは可能です。その代わり、時間外労働分の残業代は支払われません。「みなし労働時間制」は「残業代を請求しない代わりに、休憩が多くてもおあいこだよね」という考え方なのです。
――定められた時間を大きく過ぎて仕事をした場合も残業代はつかないのですか?
たとえば、会社から「この時間までに資料を作成してほしい」などの指示があり、定められた労働時間を超過したときは「残業代は別枠で払ってください」と交渉する余地もあると思います。また「みなし労働時間制」をとっているにも関わらず、「何時から何時までデスクの前にいなさい」と命じられたり、逐一上司に業務報告をしなくてはいけなかったのなら、「実際は実労働時間制のような働き方だった」として労働時間分の残業代を請求することができます。
すなわち、「みなし労働時間制」は、実労働時間の管理が困難なので、やむなく「みなし」を行っているという法的大前提があります。たとえリモートワークであっても、使用者が実質的に労働時間を管理しているにもかかわらず、「みなし労働時間制」を適用するのは違法であるということを覚えておいてください。
――オフィスを出て自宅で仕事した場合も残業代はつかないのでしょうか?
これも同様、上司から指揮を受けて所定の時間を超えて仕事をしたなら交渉をした方が良いと思います。ですが、気を利かせて自ら進んで定時後に仕事をした場合は、法的に労働時間にならない可能性もあります。
もし、勤めている会社にリモートワークが導入されていなくとも「帰宅後、2時間自宅で仕事をやっても良いですか?」など事前に確認をした方が良いでしょう。というのも、「実は昨日自宅で仕事をしていたので残業代をください」と事後交渉しても時間外労働として認められにくいのです。ですが、「朝イチまでに作業できるよね?」など暗黙の業務命令があったときは、時間外労働時間としてカウントされることがあります。
――リモートワークの時間外労働は会社からうやむやにされてしまう可能性もあるのでは?
そのため、自分で時間管理をすることが重要となります。最近ではクラウド型のタイムカードアプリなどがあるので、実労働時間を記録などしておくと良いと思います。また、夜中に送ったメールのBCCに自分のアドレスを入れて送信し、履歴を残しておくのも有効ですね。データ作成などであれば、データの保存時間をキャプチャーしておくのもいいかもしれません。
会社と労働者の信頼関係の上に成り立っているリモートワーク。ここまではリモートワークが実施されている会社で働く際の注意点を伺ってきましたが、まだ導入されていない会社でリモートワークをしたいと交渉することは可能なのでしょうか。
――どんな職種でもリモートワークをすることはできるのでしょうか?
法律上で「この職種はリモートワークをしてもいい・いけない」などの制限があるわけではありません。あくまでどんな部署、職種にリモートワークを適用するかは企業の判断に委ねられています。
――労働者側からリモートワークを導入したいと訴えることはできますか?
できます。ただし、先にも述べたように、あくまでリモートワークがどの範囲まで許容されるかは会社の判断に委ねられています。会社によっては「育児や介護などでやむを得ない場合のみリモートワークが可能」など規定を設けられていることもあるようですね。
――育児や介護などの理由がなくてもリモートワークをしたい場合はどうすればいいのでしょう?
リモートワークをしたい理由や、リモートワークをするメリットを提示するのがいいと思います。連絡手段を明確にしたり、リモートワークをすることによって効率が上がったり、問題なく業務が遂行できることも伝えながら提案していけばいいのではないでしょうか。
――メリットとして伝えられることとは?
たとえば通勤手当てやオフィス賃料の節約など、会社が得られるメリットもありますよね。通勤時間に使われている時間を実労働に使えると交渉するのも手かもしれません。
通勤で消耗することを防いだり、健康や家族との時間の確保にもつながります。また、新型コロナウイルスのような感染症などのパンデミックが起きた際、満員の通勤電車では感染のリスクが大きいので、リモートワークが従業員の健康だけでなく、生命を守る場合もあると言っても大げさではないかもしれません。
――リモートワークが実施されている会社は増えているのでしょうか?
最近では、地方や海外にいる人と雇用契約を結び、リモートワークで働いてもらうケースも増えています。リモートワークを導入していれば、採用の幅も広がり優秀な人材の定着にもつながるはずです。このように今後リモートワークが導入されていく会社が増えれば、働き方に融通が利かない会社は減っていく傾向になるのではないでしょうか。
働き方改革によって、現在あらゆる企業でワークライフバランスが見直されています。
その一環として、今後さらに導入されることが予想されるリモートワーク。プライベートを充実させながら、効率的に仕事を進められる反面、時間外労働の管理が曖昧になるリスクも伴っています。気持ち良くリモートワークを続けていくためには、リモートワークの正しい知識を身に付け、自主的な労働時間の管理が重要になっていきそうです。また企業側は、労働者の自主的な管理頼みになるのではなく、管理方法をしっかりと整備していくことも大切です。
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